FSBがステーブルコイン報告書、国境をまたぐ脆弱性と監視指標を整理
FSBが2026年10月12日にグローバル・ステーブルコインの報告書を公表。取り付け時の波及ルートに外国為替市場が含まれる点や、新興国の通貨代替リスク、監視指標を整理します。
公的機関・公式資料などの一次情報と照合して作成しています。このサイトについて
金融安定理事会(FSB)は2026年10月12日、グローバル・ステーブルコインの国境をまたぐ脆弱性と、金融安定の監視に使う指標をまとめた報告書「Global Stablecoin Arrangements: Cross-border vulnerabilities and financial stability monitoring」を公表しました。日本銀行も翌13日に、この報告書を紹介するページを掲載しています。ドルなどの法定通貨に価値を連動させるステーブルコインが、為替市場や銀行にどうつながりうるのかを整理した内容です。FSBは、この文書を進行中の作業を要約した「ノート」と位置づけています。新しい義務を定めた文書ではなく、各国当局が何を見て、どこを詰めるべきかを示したものと読めます。
市場は約3,000億ドル、99%が米ドル連動
報告書によると、ステーブルコイン全体の時価総額は2026年半ば時点で約3,000億ドルで、1年前からほぼ横ばいです。価値ベースで99%が米ドルに連動しています。いまの主な使い道は、暗号資産市場に出入りし、取引するための流動性の供給です。一部の新興国・途上国では、代替的な価値の保存手段となり、金融包摂を支えることもありうるとされています。将来は、国内外の決済が、より速く、透明で、低コストになる可能性もあります。ただし報告書は、そうした利点の一部は、ステーブルコイン自体ではなく、分散型台帳やトークン化といった基盤技術から来る可能性がある、とも書いています。
FSBは、グローバル・ステーブルコインを、複数の法域で使われ、1つ以上の法域でシステム上重要になりうるものと定義しています。導入部では、複数の法域にまたがって使われるため、1つの国の当局だけでは、国境をまたぐ脆弱性を十分に評価も対処もできないかもしれない、という前提を示しています。
銀行預金と何が違うのか:発行者が保有者を把握しきれない場合がある
報告書は、ステーブルコインを銀行預金と比べて説明しています。銀行は、身元を把握している預金者との口座の関係があり、バランスシート全体を見ながら払い戻しに対応できます。一方、グローバル・ステーブルコインの発行者は、誰が保有しているのか、保有者がどこにいるのか、払い戻しの需要がどこで生じるのかを、把握しきれない場合があります。トークンは、本人を特定しにくい仮名性のある形で、世界中から、24時間いつでも二次市場で移転できるためです。
こうした国際的に動きやすい性質は、有益なイノベーションとなりうる理由の一部でもあります。ただ、準備資産や保有者の法的な保護は、少なくとも一部は特定の法域に結びついたままで、払い戻しや準備資産の管理は、各市場の営業時間や決済の慣行にも縛られます。ストレス時には、24時間動く二次市場の取引の速さが、売りの速度と規模を大きくしうると、報告書は指摘しています。払い戻しが追いつかなければ、価格を連動させている水準(ペッグ)に圧力がかかります。一方で、厚く流動性の高い二次市場は、価格をペッグの付近に安定させる裁定取引を促す可能性もあるとされています。
取り付けが起きた場合の波及ルート、為替市場も含まれる
報告書は、グローバル・ステーブルコインに取り付け(一斉の払い戻し)が起きた場合に、従来の金融システムへ波及しうる潜在的なルートとして、次の4つを挙げています(筆者の整理による番号です)。
- 裏付け資産の投げ売り
- 払い戻しの資金を作るための、銀行預金の引き出し
- 実体経済での決済に使われている場合の、そのステーブルコインへの依存
- 国境をまたぐ取引でステーブルコインが使われている、外国為替市場
為替市場が入っている点は、FX・為替のニュースを追っている人にとって注目点です。ただ、報告書は「いまそうなっている」とは書いておらず、取り付けが起きた場合の潜在的な経路として整理している段階です。現状、ステーブルコインは主に暗号資産市場の中で使われているとも、同じ報告書は書いています。
新興国は、通貨代替など追加のリスクを負いうる
為替との関わりで、もう1つ読んでおきたいのが、新興国・途上国についての記述です。報告書は、新興国・途上国が、通貨代替(自国通貨の代わりに外貨建てのステーブルコインが使われること)、銀行仲介の縮小、資本フローの管理の難しさといった追加のリスクに直面しうるため、より低い利用水準でもステーブルコインがシステム上重要になりうる、と指摘しています。
「マルチ発行者」型は、払い戻しが1社に集中しうる
特に注意が向けられているのが、「マルチ発行者」(multi-issuer)という仕組みです。関連する複数の発行者が、1つのステーブルコインについて共同で負債を負い、ただし裏付け資産は別々に持つ形です。保有者は、どの発行者にも払い戻しを求められるかもしれません。その場合、払い戻しの需要が、グループのうち1社に集中するおそれがあります。準備資産の再配分は、ストレス時には摩擦に直面しうるとされています。
裏付け資産の国境を越えた再配分や、二次市場での取引によって、払い戻しの流れと準備資産の所在を揃え直せる可能性はあります。ただ、その効果は、資産の動かしやすさ、市場へのアクセス、情報の流れ、関係者の調整に依存し、ストレス時には機能しなくなりうると、報告書は書いています。保有者の所在が分からない場合は、負債がどの発行者のものか、保有者の法的な請求権がどうなるかも、ストレス時や破綻時に不明確になりうるとされています。
各国の規制のつなぎ目が、まだ決まっていない
報告書は、各国の規制の相互作用が、多くの法域でまだ不確実または未定義だと指摘しています。たとえば、外国で発行されたステーブルコインの扱いです。こうした国際的な規制の相互作用が、複雑な国境をまたぐ構造が生まれる一因となり、一部の発行者が、規制の緩い(あるいは規制のない)法域に拠点を置いて事業を行う、規制の裁定の機会にもなったとしています。一方で、画一的な方法はなく、各国は2023年のFSB勧告を、それぞれの権限や法の枠組みに沿って実施している、とも書かれています。そのうえで、グローバル・ステーブルコインと各国の規制の枠組みは、深刻なストレス時や破綻時にはまだ試されていない、と指摘しています。
当局が見るべき指標と、継続検討とされた3つの領域
監視の指標としては、データの欠落がありうることを前提にしつつ、二次市場の厚み・流動性・構造と、保有・払い戻し・準備資産の地理的な分布(特にマルチ発行者型)を見ることが挙げられています。追加の指標を検討する余地もあるとされています。2023年7月のハイレベル勧告の実施に関して、継続的な検討に値しうる領域として、次の3つが示されました。
- 国境をまたぐ脆弱性の監視を強める
- 国境をまたぐ協力と情報共有を通じて、勧告の実施を支える(各国の枠組みの相互作用にも役立ちうる)
- グローバル・ステーブルコインの経営難や破綻に備える、新たに出てきている取り組みについて、国境をまたぐ課題を中心に情報を集める
データの面では、パブリック・ブロックチェーンの仮名性により、取引を特定の用途や地域に結びつけるのが難しいことが、構造的な課題とされています。当局が主に民間のデータ提供会社に頼っているため、比較可能性や信頼性の面でリスクがあるとも書かれています。一方で、データの入手しやすさは近年大きく改善したともされ、次のステップとして、監視用の指標の整備とデータの欠落の特定、既存データの活用、データ収集と整理の業界のベストプラクティスの検討が挙げられています。
報告書を読むときの視点:時間と場所のずれ
報告書を通して読むと、論点の多くは「時間」と「場所」のずれに集約できると考えます。トークンは24時間、国境を越えて動く一方で、払い戻しや準備資産の運用は、特定の法域と市場の営業時間に縛られる、と報告書は書いています。為替との関わりについて、報告書が具体的に挙げているのは、相場の方向ではなく、新興国・途上国での通貨代替や資本フロー管理の難しさであり、そこでは、より少ない利用でもシステム上重要になりうるという点は、見落とされやすいところだと思います。また、当局が指標を使うにも、現状は主に民間のデータ提供会社に頼っているため、監視の実効性は、データの整備と国際的な情報共有がどこまで進むかに左右されると見ています。なお、報告書は相場の見通しには触れておらず、為替レートへの影響を示すものでもありません。この記事も、特定の通貨や売買の判断を勧めるものではありません。
出典
- Global Stablecoin Arrangements: Cross-border vulnerabilities and financial stability monitoring(FSB、2026年10月12日)
- 金融安定理事会による「グローバル・ステーブルコイン(GSC):クロスボーダーの脆弱性と金融安定のモニタリング」の公表について(日本銀行、2026年10月13日)
2026年10月19日時点の情報です。
本記事は情報提供を目的としており、投資助言・売買の推奨ではありません。「筆者の見解」は一つの考え方であり、結果を保証するものではありません。FX取引は元本を上回る損失が生じるおそれがあります。